俺『男は社会に出て嫌な相手にも頭を下げねばならん!俺実家に行くことぐらいでグダグダ言うな!』嫁『私はアンタに雇われたわけでも、アンタの親に雇用されているわけでもないんだよ!!』ブチギレて出て行ってしまった・・・

俺『男は社会に出て嫌な相手にも頭を下げねばならん!俺実家に行くことぐらいでグダグダ言うな!』嫁『私はアンタに雇われたわけでも、アンタの親に雇用されているわけでもないんだよ!!』ブチギレて出て行ってしまった・・・
・・・・もう、マジやばい。
ここ数年ずっと俺の実家への帰省を渋ってた嫁。
なんとかなだめすかして毎年帰省してたんだが
今年も一昨日から帰省してたんだが、
不平タラタラ言いはじめた嫁に、
「男は社会に出て嫌な相手にも頭を下げねばならん。
 dqnな上司や客にもさんざんな目に遭わされる」
「そうして男は磨かれ成長していく!」
風味の説教を酒の勢いを借りて言ってやったら
嫁、シラフでブチギレ。
「雇用関係なら報酬があるだろ!」
「上司や客に頭下げても、下げた分だけ給料貰うだろ!」
「私はアンタに雇われたわけでもアンタの親に雇用されているわけでもない」
「なぜなら報酬なんか一度も貰ってなかったからな。
 報酬も寄越さず頭だけ下げろってのは奴隷になれって事か?私は奴隷か?」
「アンタは私に奴隷になれと?そんなプレイは真っ平御免だ。ヴァカが!」
・・・・嫁、その夜深夜にも拘わらずいきなり逐電。
昨日から俺、急遽自宅に戻り心当たりを探しまくっているが見つからず。
見つかっても、何をどう言ってやればいいのかわからない。
何が原因なのかさっぱりわからない。俺が悪いのか?!
もう丸二日、寝てない。探しまくってフラフラだ。
嫁がいなくなるなんて初めての事なんだ。まいった。
嫁実家に確認とるのは物凄く勇気が要ったが、嫁はいないようだ。
下手に確認なんか入れたばっかりに
嫁の家族にしなくていい心配させてしまう羽目になって
しかも嫁の兄弟から「姉ちゃんに何をやったんだ!」と責められて欝だ。
(嫁の家は母子家庭)
嫁の職場の仲良しや幼馴染みや子供のPTA友達なんか
嫁のアカウント見るまで知らなかった。
しかも盆中ということもあり、ほとんど連絡がつかない有様。
帰省したら自分だけゴロゴロしてた。
自分だけ昔の友達と飲みに行ってた。
だって自分の実家だし、自分の故郷なんだから当たり前だろう?
普通の事じゃないか。責められるほど間違った事か?
俺の身内にあれこれ言われてたらしいのは聞いてた。
だから、帰省から自宅に戻った時はいつも「すまん」と謝ってきたんだ。
今回だって謝った。実家にいるうちに謝ったんだ。そしたら
「アンタは何で私が怒っているのかもわからずに謝るんだね」
「何が悪かったのかも解らずに謝るって大人としてどうよ?」
「謝ればとりあえずこの場は収まるって思ってるんでしょ。
 だから解決しないんだ。バーカバーカ」
って薄笑いながら言って部屋を出て行って
あれ、便所かな?と思ってたら、玄関の引き戸の音がして
ん?と思った時には車のエンジン音がして
ふと見たら嫁の荷物が部屋になくて
あれれれ?と思った時には嫁と車は走り去った後だった。
すぐに追いかけようと思ったが
俺は飲んでいたし運転なんか出来ないだろう?
何より俺は謝ってたんだぞ?
それなのになんで逐電したりできるんだ?
ちゃんとした大人のする行動じゃないだろう?
まあ、ここ読んでよく考えたら嫁の実家にはロクに顔出してなかったし
嫁は産前産後も実家には帰らなかったから、
今思えば結婚してから10年ちょっと自分の実家には行ってない。
そういう不満で実家に帰れる俺を妬んでいたんだろうな、とは気が付いた。
嫁の母親からはひっきりなしに電話がかかってくるし
向こうも必タヒで探してくれているんだろうけど、まいってしまう。
気が動転してたせいで冷静さを欠いてたから、
留守電に嫁の所在をたずねる伝言を残してしまったため、
嫁の知り合いからもひっきりなしに電話がかかりはじめた。
なんだか皆でグルになって嫁を匿い
俺を責めているような気さえしてきた。やぶへびだった。
月曜から塾が始まるってんで、子供が昼過ぎに実家から帰宅したんだが
「ずっと寝ずに母さんを探してるんだ。疲れたよ。眠い」
と愚痴った俺に「ネロかよ」って笑いもせずに言いやがった。
缶詰を見つけても缶切りが見当たらず、
炊飯器はあるが米の炊き方が解らない。
カップ麺を食おうとしたらガスがうまく点かない。
とにかくイライラしてカルシウムでも取った方がいいかと煮干しをかじっていると
「ガスはな押しながら回さないと火が点かないんだよ」と言われた。
ガスの点け方は解ったが、嫁の居場所はまだ不明。
皆が言うように、どこかホテルででも羽を伸ばしているんだろう。
言い訳がましいが、俺は家族の前で言ったんじゃないんだ。
いい気分で飲んでいたら嫁に部屋に引っ張り込まれ、
引っ張り込まれた途端ぐちぐちぐちぐち言われたもんで、
ちょっと黙らせてやろうと思っただけなんだ。
ここで生活無能力者である事を指摘されたが、
男なんて大方そんなもんだ、と
TVやなんかで家事の出来る男やら言われているが
珍しい事だからメディアに取り上げられているんだ、と
俺は今までそういう風に認識していたので
ここで指摘されたのは驚きだった。
今回初めて実家の母親に飯の炊き方を聞いたら
「(飯の炊けない)亭主をほったらかしにして
 ××美(嫁)は何を考えているのか、とんでもない嫁だ」
「そんな嫁とはさっさとリ婚すればいい」
「新しい人は私達で探してあげるから任しておけ」と。
とんでもないのは俺と俺の実家だと肌にピリピリきた。
外食しようとも考えたが、何故か卑怯に思え聞いたとおり飯を炊くも失敗。
粥と餅の中間のような飯が炊き上がり
洗濯でもしとこうと思ったが洗剤が見当たらず
掃除機には水が入っていて見ただけでびびってしまった。
無洗米は無理に研ぐと米が割れてこうなるのだ、
洗濯の際はウチは洗剤ではなく玩具のようなボールを入れる
水で排気がきれいになるから臆さず掃除機の電源を入れろ、
「あとな父さん、目玉焼き作るときはフライパンに油を入れるといいよ」
俺製作の消しゴム屑みたいな目玉焼きを生ゴミ処理機に入れ
まともな目玉焼きを作りなおして子供が教えてくれた。
このことだけでも、いかに嫁が先進的で地球と家族に優しい女なのか
いかに地球と嫁に厳しい俺の旧式な実家と折り合い辛いのか
いかに俺が家事の事も嫁の事も自分の事も知らなかったのか良く解った。
嫁を探して、何か手がかりは無いかと家捜しをして
古いスナップ写真を鏡台の中に見つけた時
心臓を握りつぶされる思いがした。
出あった頃の、俺と嫁の能天気な笑顔。
嫁はよく笑う女だが、結婚してからも笑っていたが
写真の頃みたいな能天気で無邪気な笑顔を暫く見ていないってのに気付いた。
嫁はけして美人ではないが、
写真の中のような笑顔が可愛くて惚れたんだったのに。
俺は女性経験が多い方ではないが「経験の無い女」は嫁が初めてだったし
結構な量の出血に貧血を起こしながら痛みを堪え
「初めてでごめん」と東北訛りが入った掠れた声で
半泣きで言ったあの笑顔に参って
お前を一生守るとプロポーズしたんだったのに。
俺はずっと嫁に守られていたんだよ。情けない。
スナップ写真に思いついてアルバムを引っ張り出し
片っ端からページをめくっていき
俺は今まで何をしてきたんだろう、と愕然とした。
結婚後、子供が生まれてから子供の写真一色。
赤ん坊の子供。少し大きくなった子供。
七五三、誕生日、幼稚園の行事、学校の行事。
笑う子供は一人か、大概誰か友達と一緒で、
時折傍らに嫁が登場して微笑んでいるが俺はいない。
俺にそっくりな顔の子供の傍に俺はいない。
会議の構想を練ったり仕様書を書いたり
飲みに行ったり軽く浮キしたりしてきたが
俺は家庭をちゃんと守っている。ちゃんとした男だと自負してきた。
だが、動かぬ証拠にアルバムの中で俺は家族ですらない。
子供の誕生日も一度も一緒に祝った事が無いのに気付いて
クソ暑い中全身の汗が瞬時に引き後頭部の毛が逆立った。
お蔭様にて一昨日夕刻、皆の予言どおり
リ婚届書類等諸々携えて無事嫁帰宅。
「子供が転校せずとも通える、
 私が職場を変えずとも続けられる範囲に賃貸を探した」
「後はこの書類に貴方が捺印しリ婚するだけだ」と来たもんだ。
窶れは見えるが目は活き活きと輝いていて
反射的に「男がいるのか」と訊いてしまった俺に
「馬鹿じゃないの?私、今年40のおばさんだよ?」
心底呆れた顔で教え諭すような口調で嫁が言い
安堵と湧き上がる羞恥で逆切れして
「俺が悪かったのは解るけど
 何がどうして一足飛びにリ婚にまでなるんだ!」
とTVを見ようとリモコン触っただけなのに、
そこに何故か核ミサイルの発射ボタンが仕込まれてて、
何だか知らないうちに俺が世界の破滅を呼んじまったのか?!
と、それぐらい不条理で理不尽な感である旨を伝えると
「それを理解できないぐらいの貴方の鈍さが嫌なのよ」と。
嫁の怒りの飽和点は同居話しだったそうだ。
子供が来春受験なんだが、
志望校を俺の母校にすれば同居は可能だとか
俺は長男だし通勤圏内だしとか
その子供も長男で我が家の跡取りだしとか
俺の中では割合可能性の大きい人生の選択肢の一つとして・・・・の話しだったから
酒を飲みながら親姉妹に適当に相槌を打っていたんだが
嫁の中では可能性など全く無いとんでもない話しで
侵略センソウふっかけられた挙句、
まだ侵略されてもない土地まで獲らぬ狸の皮算用をされ
降伏もしてないのに内政干渉された気分だったそうだ。
言われてみて、改めて成る程という感だ。
俺はまだ嫁を愛しているから話し合おうと
改善できるものはそっちの言いなりに総て改善するからと
強く言ってみたが、どうやら見込みはもう無いようだ。
「私が後ろ盾の無い女だと見越して無意識のレベルだとしても、
 貴方も貴方の実家も私を蔑ろにし見縊って来たでしょう」
「人は変わらないものだし、私はもう我慢したくない」
嫁は第三者を間に立ててリ婚について話し合う用意があると宣言したよ。
明日、その席は設けられる予定だそうだ。
俺はその宣言を黙って受理するしかなかった。
「もしリ婚となったら俺は父さんの方につくよ」
と子供が言った時、嫁は発狂しそうになったが
「何も出来ない人間と何でも出来る人間がいたら
 何も出来ない人間を助けてやろうと思うのが家族だ」
と子供が冷静に言って
「結局貴方はそうやって何も出来ず何もせずのくせに、
 私の権利を尽く掠め取っていくのね」
聖母マリア像の慈愛の表情と他人行儀な冷たさで嫁が言い
俺は湧き上がってきた水分を
どうにかして目から鼻に移項させるので精一杯だったよ。これが俺の全部だ。
俺みたいな情け無い男はそうそういるもんじゃないだろうが
俺の匂いがする道にうっかり足を踏み入れそうになる奴もいることと思う。
その時は俺の悪臭に気付いて、その道を思い留まってくれ。
ひっきりなしに洟をかみながら仕事でもないのに
一時間もキーをタイプしていてなんだか頭痛がするが
俺はタヒなないから大丈夫だ。
俺が住んでいるのは新興住宅街なんだが
話し合いの為に出かけようと家を出たら
土曜だ、近所の連中の仲良し家族ぶりを見せ付けられて、参った。
子犬と遊ぶ親子。車を洗う親子。
微笑みあいながら庭の手入れをする夫婦。
「奥さん、ご病気?お盆から姿が見えないし寄せ植えもこんなだし・・・・」
近所の年配の奥さんが俺を見て近寄ってきて、
我が家の玄関先の鉢植えを見ながら心配そうに言った。
嫁が出て行ってまだ一週間なのに、
猛暑だったから鉢植え群は枯れ果てていたし
改めて我が家を見ると、近所の家々に比べて際立って荒れ果てて見えた。
「入院とかなさってるの?奥さんが帰ってくるまで私がお水を上げましょうか?」
「うちが旅行の時とか、奥さんにお世話になってたし」
嫁がそういう風に近所づきあいをしていたなんて初耳だった。
「これまで君がどんな不満を持っていたのか話してくれ」
「人に聞いた話だが、産後とか、俺や俺の実家のした事は
 君にとって辛い対応だったのではないかとか」
「あらためて色々他の事にも思いを巡らせてみたんだ」
と俺は言ったが
「私はこれまで貴方に伝えてきたつもりだったけど」
「今、あらためて貴方が聞き直すという事は
 何も伝わってなかったってことなのね。残念だわ」
「過ぎてしまった事の不満や愚痴を今更言っても
 何か取り返せる気もせず思い出すのも面倒で気分が悪い」
「貴方の為に嫌な思いをする義務が、まだ私にあるのかしら」
と返ってきた。
「自分が気付かずに来てしまった改善点、反省点を
 どうか今一度、指摘してくれ。反省したいし、改善したい」
と言うと
「まぁ、それは素晴らしい心がけだわ」
「勝手に反省すればいいし、どんどん改善しなさいよ」
「善い事だし止めないわ。ご自由にお好きなだけどうぞ」
「でも『今』私は貴方に反省も改善も求めていないのよ。
 私が『今』貴方に求めている事は判をついてくれる事だけ」と。
「判を押したくない。リ婚したくない。子供を手放したくない」
「何より君と別れたくない。愛している」
我乍ら恥ずかしかったが皆のアドバイス通り人目も憚らず言ってみた。
「いい歳をして駄々っ子みたいね。全部貴方の都合でしょ」
「貴方は私がしたいという事をすべて否定するのね」
嫁は顔を赤らめて同席した子供や
間に立ってくれている人を窺うようにした。
「結婚は、両性の同意がなければ出来ないけれどリ婚は片方の申し立てで出来るのよ」
「私は貴方にリ婚を申し立てているの」
「私は独身で居る時よりも幸せになろうと思って結婚した。
 子供を産んだという事以外、貴方と結婚して幸せになった点は無いよ」
「よく考えたら、結婚しなくても子供を産もうと思えば産めたのよね」
「なんで結婚しちゃったんだろ、と疑問を持つような
 結婚生活を続けていく事って意味がある事とは思えない」
「17年間暮らしてきて、貴方は歳をとった事以外変わってない」
「きっとこの先も貴方は変わらない。変われないと思う」
「私は貴方と暮らしてきて変わったよ」
「それがいい風にだか悪い風にだかは解らないけれど。変わったのよ、私は」
「貴方と居ても私は幸せじゃない。
 幸せじゃない女と一緒に居たら、貴方も幸せじゃないと思う」
「幸せじゃない親の傍に居たら、子供は幸せじゃない」
「私達が結婚生活を続けていても、それにかかわってる人間が
 誰も幸せじゃないのならリ婚するしかないでしょう」
「親権・養育権両方私にくれてリ婚してくれるのなら慰謝料も養育費も要らない」
「私も△△(子供)を手放したくない。私が産んだ子よ?
 私がお乳をあげて、私が育ててきた子なのよ?」
「でも△△も、もう小さな子供ではないし意思を尊重するわ」
「△△が、私ではなく貴方を親に選ぶ、というのなら
 私は悲しいけれど辛いけれど、その選択を責めない」
「そのかわり、貴方が引き取った場合は
 △△の進路の事は△△の望むとおりにしてあげて欲しい」
「それでなければ私は親権も養育権も譲れない」
「貴方は知らないかもしれないが、この子は理系が得意な子で
 貴方の母校は昔は理系が強かったけど今は文系が強い学校で
 この子のその先の進路、というものを考えた時、貴方の母校が適しているとは思えない」
「私は貴方の文系が得意なのに理系に進まされた苦労話を憶えている」
「貴方のした苦労を、どうか△△にさせないで欲しい」
「慰謝料は要らない。むしろ出来る限り養育費を払います」
嫁が殉教者みたいな顔で言い、目を潤ませた。
息子「俺の本心は母さんの方につきたい」
「だが俺はまだ子供で、これから学費だってかかる」
「俺が言うのもアレだが母さんはまだ若いし、
 ・・・・これから頑張って誰かを好きになって、
 もう一度幸せになるチャンスがあっていいと思う」
「だけどチャンスの為に残された時間は少しだ」
「俺という存在は客観的に見て
 母さんのチャンスの為には邪魔者以外の何者でもない」
「俺はまだ子供で、母さんを幸せにしてやる力は無いがせめて足枷になりたくない」
「だから、俺は父さんの方につくよ。母さん、幸せになってくれ」
「父さん、父さんは男で、女の母さんよりはチャンス期間が長いし有利だ」
「俺が居るということでチャンスに対して
 母さんよりは不利にならないだろうと思う」
「俺は暮らしの面で父さんを助ける事ができると思うし
 助けになるよう努力するし、大学とかは俺にやる気があれば
 頑張れば自力でなんとかやれる方法があるって事を俺は知っている」
「だから申し訳ないが高校の三年間だけ俺を扶養して貰えないだろうか」
「父さん、母さん。俺、今何も出来ない子供ですまん」
込み上げてきた涙を見られたくないからだろう
子供は一息に話すと、そっぽを向いた。
嫁「母さん、あんたのこと邪魔だなんて思ったこと無い!」
立会人「落ち着いてください、奥さん」
「違うんだよ母さん」
とか子供がいいながら泣きじゃくる嫁の肩を抱いて揺さぶるし
まるで安っぽいドラマでも見ているようだった。
どこかにト書きがあって俺以外の人間は他の席にいる客達も全部
おしぼりを慌てて追加で持ってきたその店の従業員すら
ト書きに従っているエキストラじゃないかと思った。
俺以外の人間が全部「お互いの幸せを思いやる」という
臭い演技をしているように見えて居た堪れなかったよ。
「俺は『リ婚したくない』と言っているのに
 君達は『リ婚するなら』『リ婚した後』を話している」
「これでは永遠に話が噛み合わないと思うんだが」と俺が言うと
「この席は『リ婚するなら』を前提にした話し合いの席」
「話し合いが噛み合わないのは貴方がその席に相応しい態度でないからだ」
「もし、噛み合えないと言うのなら噛み合う席を用意しましょう」
「どういうことかというと、席を家裁に移すという事」
と立会人が言い
「私にとっては自然な流れの来るべき結末だけど
 貴方にとっては晴天の霹靂なんでしょう」
「来週まで時間を差し上げるので、その間考えて下さい」
と嫁がおしぼりを目に当てながら言った。
子供が気を利かせてくれて「二人だけで話したい事もあるだろう」と
立会人と一緒に帰っていって本当に久しぶりに嫁と二人きりで食事をした。
俺は、ここに書いたこと写真の事とかアルバムの事とか家事の事とか
そういうので感じた俺の気持ちとかを全部話した。
すっかり冷めてしまった炊き物や汁物を
もそもそ食いながら嫁がぽつぽつ話し出した。
結婚時、俺の親に家の格が違うと反対されたのに
結婚を押し通してくれてうれしかった、とか。
仕事が忙しい人だと知りながら結婚したけど
サポートする為に自分が仕事を辞めねばならなかったのは
しかたがないと諦めつつも釈然としなかった、とか。
子供が生まれた時、手伝いの手は有難かったが
慣れない生活で乳が止まり、それだけでも辛かったのに
「まともでない育ちの上、乳もあげられないダメな嫁」
と俺の母や姉妹に言われて切なかった、とか。
子供の、男の子ゆえの成長の遅さ、体の弱さを論われて
「まともでない育ちだから、子育ても満足にできない嫁」
と事あるごとに言われるのは悲しかった、とか。
自分の母親や兄弟に会う事もできず父親の墓参りもできず
毎年の盆正月、それ以外の長期休暇も俺の実家の台所にしか居場所が無く
俺の身内が酒盛りをして笑い興じているのを見ているのは
自分の母や兄弟やタヒんだ父にも申し訳なく、寂しくて悔しかった、とか。
幼稚園、小学校、周りの子供たちに引き比べて僻む子供に
「お父さんは私達の為に一生懸命お仕事して下さっているのよ」
と言ってきたが、中学に上がり進路指導とかあって
ついにはその言い訳が通らない年齢になったと思い知らされ
怖いと同時に遣る瀬無かった、とか。
「私が『家が欲しい』といった時、貴方は『じゃあ買おう』と言ってくれた」
「嬉しくて嬉しくて人生ってなんて素敵だ、と思った」
だが、嬉しかったと同時に打ちのめされたと。
土地を捜し歩いたのは嫁だったし建設会社を探してきたのも
諸々の仕様を検討したのも嫁だった。
「水周りの事を決めるにしたって、こっちの要望を伝えたって
 『奥さんがどんなに頑張ってもねぇ。旦那さんはなんて?』
 と職人さんに言われちゃうのよ」
「水周りを一番使うのは私で、その私の要望なのに、よ」
「世の中って、そういう風になってるんだなぁって」
「間取りやカーテンや照明、壁紙、玄関のドア、窓の配置。普通夫婦で考えない?」
「家を建てるって、そういうのが楽しい物じゃない?」
「貴方は、ゆくゆくは実家に帰ろう、この家は仮住まい、そう思っていたのよね」
「だから興味が無かったんでしょうね」
「貴方は、この女は子を産む道具、楽しむのは他の若い女
 そう思ってたんでしょ。だから私にも興味が無かったのね」
嫁は全部お見通しだったのか?と愕然として
食っていた料理を戻しそうになった。
嫁が「欲しい」と言ったのだから嫁の好きにさせてやるのがいい
俺はその費用を稼げばいいと思っていた、というのは言い訳で、
その当時俺は嫁以外の女の事を考えていた。
小学校1年生の子供を抱えて、嫁が新築の為に奔走している状況は
余所の女に時間を費やすのにとても都合が良かったからだ。
嫁は二人目がなかなか出来なくて病院に通っていたそうだ。
病院に通いだしてから太りだしたのだと言う。知らなかった。
たしかにあの頃、嫁は急激に嵩が増していた。
俺は幸せ太りってヤツだろうと思っていた。
「ごめんなさいね。私がいけなかったんだものね」
嫁は、俺の浮キが嫁の見た目の劣化のせいだろうと謝った。
そんな事のせいではなく、単なる男の性だと俺は言ったが
「私ももう一人欲しかったんだよね。△△の為にも年齢的にも焦ってたしね」
「何より貴方の身内に会う度に『一人っ子はかわいそう』とか言われちゃっててね」
嫁は俯いて小さく笑った。
きっと他にも何か言われていたんだろうな、と思ったが怖くて聞けなかった。
「今は元通りに痩せてるじゃない。ダイエットしたのか」と言ったら
「年齢的に不妊治療を止めただけだよ」
とそっけなく言われた。俺は何も知らなかった。
「3度目の時よ」と嫁が悪戯っぽく笑いながら顔を上げた。
これはきっと行く行くはリ婚になるなぁと思ったのよ、と。
「備えて仕事をしなくちゃなあって。頑張ってきたのよ私」
「何を持って3度目なのか」と俺が慌てて訊くと
「もっと多かったのかしら。少なくとも私が確信を持った限りでは3度目だったのよ」
嫁は里芋を口にポイと放りこんで咀嚼しながら話した。
「ええと、それはいつ頃の事だろう。根拠は何だろう」
りろりろしながら訊くと
「3度目は△△が5年生の時ね」
「貴方の彼女って”私、旦那さんと愛し合ってます。別れてください”
 って電話かけてくる人ばかり。私でなくても解るわよ」
「俺は誰とも深入りしてないぞ。遊びだから割合すぐに別れている」
「そうでしょうね。だからこそ3度も電話がきたんだわ」
「△△は、この事を知っているのか?」
「それ以前のことは知らないと思うけど3度目の電話をとったのは、あの子なのよ」
「何で、俺に何も言わなかったんだ?」
「居ない人には誰も何も言えないでしょ?」
俺は頭を抱えた。俺は何も知らなかった。
「私は貴方の為に子供を産んだのではないし
 貴方の実家の跡取りの為に産んだのでもない」
「勿論私の老後の為に産んだわけでもない。あの子は私の物でも貴方の物でもない」
「あの子自身の人生の為に生まれたのよ」
「あの子がより良い巣立ちが出来るように私は尽力するだけよ」
「愛し合ったら授かったのよ。授かったら嬉しかったのよ」
「嬉しくて、産んだら可愛かったのよ。可愛いくていとおしいから育てたのよ」
「育てた後は幸せになって貰いたい」
「あの子の為に貴方という存在は害悪だわ。
 お願い、私にあの子を任せてリ婚して下さい」
嫁は深々と頭を下げてから
「この里芋、冷凍かしら。美味しくないわね」と照れた様に笑った。
今週末、俺はまたあの小料理屋に行かねばならないが
これを書きながら俺の気持ちは固まったよ。
家と土地を慰謝料がわりに嫁と子供に差し出し
俺はローンと養育費を負担する事を提案するつもりだ。
次回の話し合いの席でリ婚届に判を押すよ。
家裁で他人に愛情の量り売りをされるなんて辛すぎる。
俺は欝にもなっていないし、嫁と子供ために出来る事をするしかない。
リ婚して、はじめてあいつらに何かしてやるなんて皮肉もいいところだ。
皆、叱咤激励、有難う。ロムに戻る。さよなら。 [va_social_buzz]

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